ym125の日記

今しか書けないこと

Mr.Children 「innocent world」の作曲から、アイデア発想のあり方について考える

いつの日もこの胸に流れてるメロディー

軽やかに緩やかに心を伝うよ

陽のあたる坂道を昇るその前に

またどこかで会えるといいな

イノセントワールド

 

 


Mr.Children - innocent world + 抱きしめたい - YouTube

 

 

 

とっても好きな歌。好きな歌だと、文章にも力が入ります。この曲が好きだという前提で書いてます。

 

桜井氏の少年から大人へと移行する自我のありようを描いて、結果的に200万枚に迫る大ヒットを記録。発売から20年近く経過している曲ですが、古くささを感じさせない名曲です。

 

もともとこの曲は、アクエリアスイオシスのCMのタイアップ曲として作られました。「アクエリアスのCMタイアップを大前提として作曲を始めた」と当時のインタビューで桜井氏が語っています。それ故、当時の桜井氏は、作曲よりも作詞に苦戦したようです。CMのタイアップ曲に、どこまで自分の内面を反映させて良いのだろうか、と。

 

 

 

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桜井氏の作詞ノートです。出だしの「黄昏の街を背に」の部分が「少しだけ疲れたな」となっていたり、サビの最後が「イノセントワールド」ではなく「イノセントブルー」となっていたり、やたらと()が多用されていたりと、試行錯誤の痕跡が見えます。こんなふうに、名曲が完成に至る背景が垣間見えた時、ちょっとした感動を覚えます。

 

試行錯誤の痕跡がある中で、すでに完成系の歌詞とほぼ変わらない部分があります。この部分は、桜井氏が一貫して強く伝えたいことだと思うのです。このノートを見ればわかりますが、サビ(いつの日もこの胸に 〜 またどこかで会えるといいなぁ イノセントブルー)と、サビの直前(あぁ僕は僕のままで 〜 いいだろうmr.myself)は、このノートにおいて、すでにほとんど完成しています。二番の歌詞もほとんど完成していますね。

  

CMタイアップは自分たちの存在を全国に知らしめるチャンス。CMという15秒の枠の中で、いかにして視聴者に強いインパクトを与えるか、ということを当時の桜井氏は考えていたのでしょう。しかし、「自分が歌いたいことを歌いたいように歌うだけではダメだ。あくまでも商品にマッチした曲でなければならない。 」そんなジレンマもあったと思います。(あくまでも想像の話です)

 

このように考えると、やはりサビはアクエリアスを強くイメージして作詞・作曲した、というか、せざるを得なかったと思います。CMタイアップが大前提ですから。作詞・作曲について、ないしは期日などについて、コカ・コーラアクエリアスのメーカー)からの要求もあったでしょう。広告代理店からの要求もあったでしょう。小林武史氏からの要求もあったでしょう。

 

実際、小林氏からのダメだしがあったとされています。最初に桜井氏が持ってきた「イノセントブルー」はアクエリアスを強く意識した曲でした。当初は歌詞に「灼熱」という言葉があったと言われています。

しかし楽曲自体にポテンシャルを感じていた小林氏は、この曲がMr.Childrenのターニングポイントになると考え、「今の桜井だからこそ書けるものを」とあえてこの曲の歌詞をダメだし。このダメだしを受けた桜井氏は、次の日に歌詞を仕上げてきたそうです。(上のノートはダメだし前か後か不明です。でも完成度からして後のように思えます。)

 

こうして完成した「イノセントワールド」は、アクエリアスのCMソングという文脈をふまえつつも、24歳の桜井和寿のメッセージも歌の中に含まれています。そのため、サビの部分はこの曲の中で最も抽象的な歌詞になっている印象を受けます。だからこそ解釈の幅が広がり、多くの人が様々な個人的経験を歌の中に投影しやすくなります。このサビでは、そんな高度な作詞技術が用いられているような気がします。

 

ところで、先日どこかで読んだ記事を思い出しました。Scott Belsky氏は、「アイデアを生み出す秘訣は制限をもうけること」だと言います。

 

私たちは普段、「このような制限はなければないほど良いアイデアが出る」と思いがちです。だからこそ、予算をできるだけ増やそうとしたり、期限をできるだけ伸ばそうとしたりするのでしょう。しかし、実際に何の制限もない状態で生まれたアイデアは、意外にも大きな失敗を招きやすいのです。

私たちがアイデアを考えるときは「意識的に制限を設けること」、既に制限があるときは「その制限に感謝すること」を忘れないようにしましょう。

 

アクエリアスのCMソングを作らなければならない、という「制限」があったからこそ、この素晴らしいメロディと歌詞が生まれたのではないでしょうか。アクエリアスではなくウーロン茶だったら、もっと渋い曲が生まれていたかもしれませんね。「あれがあるから、、」とか「あれがないから、、」とか言い訳がましくなってしまった時こそ、「制限」に感謝すべきなのでしょうね。

 

最後に。

やや話が逸れますが、個人的には、

 

Ah 僕は僕のままで

ゆずれぬ夢を抱えて 

どこまでも歩き続けてゆくよ

いいだろう? mr.myself

 

の歌詞が大好きです。CMで使われない部分だからでしょうか、この部分こそが、当時の桜井氏の、最も正直かつ、前向きな感情が表れていると思います。それに加えて、徐々に気分を高揚させてくれる流れるようなメロディーも素晴らしいです。サビへのジャンプ台として機能しているmr.myselfのメロディは、サザンの作曲をヒントにしたという噂です。